(date) 2016.5.14 Sat. / (member) まっきぃ / (type) 無雪期日帰り / ルート(KML) / (edit) 2017.1.30 Mon.
謎のゲレンデ「入笠スキー場」とは? 距離からいってパノラマとも「お花畑」とも違う 青柳駅 2016年5月
入笠山.にゅうかさやまと読む.信州の地名は濁音にしそうなところが清音であることが多い.軽井沢も土地での読みは「かるいさわ」らしいし. まぁいい.入笠山は山頂標高 1955m.富士見パノラマスキー場のゴンドラリフトを使って気軽に登りおりできる山である. にもかかわらず営業中の山小屋が3軒も存在する.この山がいかに愛されているかということがうかがえよう. 「山小屋のうち,山彦荘とマナスル山荘本館の2軒は通年営業である.積雪期には,北八ヶ岳とともに雪山登山(どちらかというと雪原歩き)の入門者たちが訪れる」
というのがふつうの説明なんだろう.しかし2015/2016年の冬は本当に雪が少なかったので,上記のことを言われても実感が湧かなかった. スキー場の中にしか居なかったけれど,「本当にこんなところで雪山の訓練なんかできるの?」というのが率直な感想だった. 雪のどっさり積もったところを見てみたいものである.
尖石遺跡で発掘された土偶「縄文のビーナス」に因んだ「ビーナちゃん」 マスコットにしてはえらく豊満でなまめかしい 青柳 2016年5月
伊那から諏訪へ抜ける道というと,今でこそ車道ルートは高遠の本谷を北上して杖突峠から諏訪大社上社前宮の横に下りてくる国道152号がほぼ唯一だが, 徒歩の時代にはこの入笠山周辺を通るルートも割と使われたらしい. 日朝上人という日蓮宗のお坊さんが巡教の旅で通った道がこのあたりらしく,大阿原湿原の西にはそこに座して説教を垂れたという「高座岩」がある. またその道は「法華道」と呼ばれ,現在の沢入ルートおよび御所平までの林道は概ねこれに沿っている. 戦国時代に合戦で陣が布かれたこともあったらしく,御所平も含めそれに因んだ地名も残っているそうだ.
古びた案内看板 青柳ルート登山口 2016年5月
入笠山はゴンドラのおかげで手軽に楽しめる山となっている反面,徒歩の入山は沢入ルート以外は人跡もまばらである. 森の手入れのために人の入っている形跡はあるが,地形図の上では車道となっている道でも土砂の堆積や倒木がそのままになっている. ただ,山をやる者にとってはこの程度は荒廃のうちには入らないだろう. 今回は,かつてはポピュラーだったという青柳駅から入笠湖の西の尾根に取りつき,前回通ったすずらんの里駅〜思沢川遡上ルートと合流, 御所平から山頂往復,高座岩を経由してテイ沢を遡上し大阿原湿原に到り,林道で御所平に戻ってくるルートとした. 帰りは横着して富士見パノラマスキー場のゴンドラとシャトルバス利用を目論んだ. 0810青柳ルート登山口より入山.
用途不明のメータ 「提督」諸将にはおなじみ愛知時計電機製だが,はてさて 青柳ルート登山口 2016年5月
枯葉の積もる道をゆく 青柳ルート 2016年5月
まだ5月中旬で藪が繁るより前のタイミングで来られたためか,足どりは順調.もともと梢の高い樹林帯の中を進むので,あまり草は育たないのかも知れない. 明らかに手入れをした形跡が認められるところもあり,この山が今なお日常の営みとともにあることをうかがわせる. 一部の区間には昨年からのものか枯葉が積もっていた.吹き散らされもせずよく残っているものだと思う.
前回10月はじめに来たときは寒くて虫の気配すらなかったが,今日はそれよりは温暖で,道沿いにはところどころアブやハチが飛び回っていた. 纏いついてくるのでそういうときには足早に通り過ぎる.勾配があるとややしんどい.
シダの群生 青柳ルート 2016年5月
今回のルートでは頭をクルクルと巻いた姿が印象的なシダの群生を幾つも目にした. ふだんあまりシダが生えているのを見ることはないので,なんだか別の世界に迷い込んだのかという気分である. 別の世界というか別の時代というか.漫画だと,恐竜時代の密林にはよくシダが描かれている気がするが,それが頭の隅にあるからかも知れない. 道すがら,閉ざされた山小屋を何軒か横切ることもあったが,手入れはされているらしく小綺麗で,荒れた様子はなかった.
前回ルートと合流(1540m 地点) 青柳ルート 2016年5月
1007前回の登高ルートと合流.高度 1540m.今回は一応道と呼べるものに沿って歩いてこられたので,むしろここからのほうが長く感じられた.
久々に人影を認める 入笠湿原 2016年5月
1050入笠湿原着.入山からここまで誰とも会うことなく来たが,まだシーズンには早いだろうにここには多くの人たちがいた. これから入笠山頂へ向かう人だろう.あるいはさっさと登頂を済ませて帰ってきた人か.
マナスル山荘本館の名物犬「コハダ」 マナスル山荘本館前 2016年5月
1100御所平着.マナスル山荘本館にて給水休憩.山荘の犬「コハダ」が,トコトコとこちらに駆け寄ったかと思うと,クルっと踵を返して遠ざかる. シャイなのか.いやむしろ野犬があとを尾けてくるときの挙動のようにも思えるけれど…….
今から登って下りてくるとちょうど昼になってしまい山荘は混雑するだろう. 折角だから前回食べなかった名物のビーフシチューを食べようと思っていたのだが,しかし先に昼食を済ませたら気が緩んでしまいそうだ. しかし食べ物に左右されてもなと思い直し先に登ってしまうことにした.
山頂はこの日も賑やかだった 八ヶ岳にかかる雲が恨めしい 入笠山 2016年5月
空は湿度が高いのかやや白っぽかったが,それでも山頂はいい天気ではあった.ただまわりの山には雲がかかってしまっていて眺めはいま一つであった. 八ヶ岳を最もいい方角から見られるのがこの山の最大の取り柄なのだが.
山頂には幾つものパーティが腰を下ろしてコンロに火を点け,コーヒーを淹れたり昼食を食べていたりした. ボクは山頂で飲み食いするのは,行動食程度ならまだしも,しっかり腰を下ろして食事するというのは,安全の観点からも, あとから来た人たちの居場所がなくなるということからも,あまり良いとは思わないのだが,入笠山ならまあいいのかな. 広くてなだらかで切り立った断崖もないし.
ただ,ここの山頂には,どの方位にどんな山があるか,というプレートが山頂に置かれた台の上にはめ込まれており, このプレートを見ながら,「あれはあの山,それはその山」と山座同定を始めだすとつい長居してしまい,記念撮影の邪魔になるので注意が必要だ. 山座同定はボクも好きなので,山域の地形図とあわせ,主だったピークのわかる広域の地図を持ってゆくことにしている.
下りてくると丁度昼だった マナスル山荘本館にて名物ビーフシチューをいただいた 御所平 2016年5月
御所平に戻ってくると丁度昼だった.幸い山荘はそれほど混んでいなかったので,ビーフシチューをいただくことができた(写真撮り忘れた). ビーフシチューはやや塩分控えめであった. しょっぱいと食が進む,というのはよく聞く.この場合はごはんを食べて塩味を和らげるということだが. しかし,自分が丁度いいと思っているより僅かに塩分が少ないときにも,味わいがすぐに拡散して消えてしまう感覚があって, そのものをさらに食べることで味の感覚を補おうとしてどんどん食が進む,というのもある. このシチューはそういう味だった.
高座岩より高遠山室の谷を望む 2016年5月
昼食後,入笠牧場の中を経て高座岩へ. 高座岩への途中,入笠牧場の立ち入り制限箇所に入り込んでしまったらしく焦った. 地形図に記された 1807m の三角点を北から西に巻く道を辿っていたらどんどん敷地の中に入っていってしまうのだ. 途中にあったゲートは自動車の通行だけを制限するものだと思っていたのだが. 幸い放牧期間中ではなく,牛追い祭のような目には遭わずに済んだ. 道は有刺鉄線の柵の中へと進んでゆく.いよいよまずいと思って,有刺鉄線をくぐって外(本当か?)に出て,道なき尾根を進む. 高座岩への道は別に整備されているようだが,地形図には載っていなかった. ふだんは地形図ばかりで登山地図を参照することはあまりないのだが,気を遣わなきゃいけない相手は自然の脅威ばかりではないな. ともあれ,やがて法華道に合流し,1352高座岩に到着した.
テイ沢に沿って遡上する(振り返って撮影) 2016年5月
高座岩から谷底の道に戻るルートもよくわからない状態だった.杣道みたいのがあったのでそれに従って下りたら川辺で行きどまり. 仕方なく石伝いに渡河し,これまた安定しない斜面をどうにかのぼって道に復帰した. 地形図にはテイ沢を大きく高巻きした挙句,サブピークを登降する徒歩道しか記されていないが,実際にはテイ沢沿いに道はあるので,それを遡上して大阿原湿原まで行ける.
大阿原湿原 2016年5月
1520大阿原湿原着.山の中谷の中をずっと歩いてきて,唐突にこんな静かで平坦な場所に出てくるのだから不思議な気分になる.
首切り清水の解説 なんだかなぁという名前の由来 ちなみに飲用不可 2016年5月
大阿原湿原側から再度入笠山頂を目指すことも考えたが,時間も遅かったのでやめた. 大阿原湿原を出たときすでに時刻は16時近くになっており,もはやゴンドラの下り最終には間に合わないにしても,沢入までは明るいうちに下りたかった.
お花畑(シーズン前) かつての入笠山スキー場 上の黒い点はついてきたアブ 御所平 2016年5月
御所平の下まで戻って小休止.忌避剤が切れたのか,頭の後ろをずっとアブが纏いついてきてうっとうしい. かつてスキー場だったという斜面を眺める.冬に雪が積もったら来てみたい.
入笠湿原から沢入へと向かう 2016年5月
1630沢入ルートから下山開始.沢入まではまだいい.沢入から松目までのダラダラ車道が長いんだこれが.
沢入登山口 ここからがもうひとがんばり 2016年5月
よくおぼえていないが30分ほどで沢入登山口に到着.ここも後半地形図と実際の山道の形が違っているようなので注意が必要だ. とはいうものの道はしっかりしているので迷う心配はない.
夕暮れの富士見 晴れていればアーベントロートの八ヶ岳が映える 松目 2016年5月
八ヶ岳の裾野 カメラを傾けて撮影したのではない 松目 2016年5月
沢入から松目までの車道をどうにか下りきる.標高1000m地点(道沿いに立て札がある)から,松目地区の中心へと向かってゆく道は景色がひらけていて, ここまでくると下りきったという安堵感に満たされる.晴れていれば夕日に染まる八ヶ岳の峰々がきれいだ. 右前の八ヶ岳から視界の正面へと裾野がなだらかに延び,それを見ていると,自分のほうが斜めに立っているのではないかと錯覚する.
富士見駅 2016年5月
1841富士見駅着.これにて山行終了.
なりたくない山屋になりつつある 富士見駅 2016年5月